ウィーン・スタイルビーダーマイヤーと世紀末生活のデザイン、ウィーン・劇場都市便り終了致しました

ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末

「ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末」ご来館にあたって

土曜日・日曜日・祝日は日時指定予約(平日は予約不要)

9月22日(月)午前10時から予約受付開始

展覧会概要

19世紀前半のビーダーマイヤーと世紀転換期という、ウィーンの生活文化における二つの輝かしい時代を取り上げ、銀器、陶磁器、ガラス、ジュエリー、ドレス、家具など、多彩な作品をご紹介します。両時代の工芸やデザインに通底するのは、生活に根ざした実用性と快適さ、誠実で節度ある装飾、そして自然への眼差しと詩的な遊び心です。これら両時代に共通する美意識を、相互比較や空間構成によってご体感いただきます。
ウィーンは19世紀から20世紀初頭にかけて、独自のモダン・スタイルを築きました。オットー・ヴァーグナーが実用性と合理性を重視する「実用様式」を提唱し、その思想に共鳴した弟子ヨーゼフ・ホフマンらが推進したウィーン世紀末のデザインは、幾何学的で建築的な造形を特徴とし、実用性と快適さを実現する機能美が備わっていたといえるでしょう。一方で、1920年頃には幻想的で装飾性豊かな作品も生まれ、一元的な様式にとどまらない多様な造形が広がります。
この世紀末のデザイン革新の背景には、19世紀前半のビーダーマイヤー様式への回帰があります。手工業の質の高さ、模倣ではない主体的なデザイン、自然モチーフへの親しみは、世紀末のデザイナーたちにとって「近代的な住文化の出発点」として賞賛されました。過去の遺産を意識的に継承し、造形の基盤として参照しながら、より時代に即した造形に発展させることで独自の「ウィーン・スタイル」を獲得したのです。
本展は、こうした「ウィーン・スタイル」のありようを、両時代のデザインや工芸作品はもちろん、グスタフ・クリムトの繊細な素描作品や、当時際立った存在であった女性パトロンや文化人の活動、また女性デザイナーたちの仕事にも注目することで、多面的にご紹介します。さらに最終章では、世紀末ウィーンを越えてなお継承されるそのスタイルについて検証します。
NUNOが本展のためにデザインした織物を作品の展示面に使用した、特別な鑑賞空間で皆さまをお待ちします。

メインビジュアル上段:左から右へ ヤーコブ・クラウタウアー 《ティーポット》 1802年 アセンバウム・コレクション A、 ダゴベルト・ペッヒェ 《レース》 1920年頃 エルンスト・プロイル・コレクション P, K、 ヨーゼフ・ホフマン 《センターピース》 1924-25年 ギャラリー イヴ・マコー協力 M、 下段:左から右へ ヨーゼフ・ホフマン 《ブローチ》 1912年 アセンバウム・コレクション A、 《椅子》 1820年頃 アセンバウム・コレクション A、 ダゴベルト・ペッヒェ 《箪笥(チューリッヒ支店の家具の一部)》 1917年 エルンスト・プロイル・コレクション Me
※各作品キャプションの末尾に記されたアルファベットは写真クレジットおよび写真家クレジットがある事を示します。 [写真クレジット] A:Asenbaum Photo Archive, P:Ernst Ploil, M:Yves Macaux, Me:Christian Mendez /MAK, K:Photographen: Birgit und Peter Kainz

展覧会会期
2025年10月4日(土)〜 12月17日(水)
※会期中一部展示替えを行います。前期 10月4日〜11月11日、後期 11月13日〜12月17日。11月13日以降に再入場の場合は、半券ご提示で100円割引となります。
開館時間
午前10時~午後6時(ご入館は午後5時30分まで)
※11月7日(金)、12月5日(金)、12日(金)、13日(土)は夜間開館、午後8時まで開館(ご入館は午後7時30分まで)
休館日
水曜日(ただし12月17日は開館)
入館料
一般:1,500円、65歳以上:1,400円、大学生・高校生:1,000円、中学生以下:無料 
※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。ホームページ割引引き換え券はこちら
ゲストキュレーター
新見 隆 氏(武蔵野美術大学教授)
監修
パウル・アセンバウム博士、エルンスト・プロイル博士、久保クネシュ幸子博士
主催
パナソニック汐留美術館、日本経済新聞社
後援
オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム東京、オーストリア大使館観光部、港区教育委員会
特別協力
豊田市美術館
協力
全日本空輸株式会社、株式会社布、株式会社マルナカ
企画協力
株式会社ニキシモ

関連イベント

記念講演会(日本語への逐次通訳付き)

終了致しました 満席のため受付を終了しました
講師
パウル・アセンバウム博士(本展監修者)
新見 隆氏(本展ゲストキュレーター、武蔵野美術大学教授)
日時
10月4日(土) 午後2時~4時(開場午後1時30分)
定員
150名(要予約)
聴講費
無料(ただし本展の観覧券が必要です)
会場
パナソニック東京汐留ビル 5階ホール

*未就学児はご遠慮ください。
*展覧会観覧には、事前の日時指定予約が必要です。

申し込み方法

【ご予約方法】

ハローダイヤル(050-5541-8600)へお電話にてお申し込みください。

①イベント名 ②参加人数(一度に2名までお申し込みいただけます) ③氏名(全参加希望者) ④住所 ⑤電話番号を承るほか、簡単なアンケートにご協力いただきます。

  • ・2025年9月1日(月)より受付開始
  • ・ご予約の受付時間 午前9時~午後8時
  • ・ご予約の受付は先着順、定員になり次第締め切りとさせていただきます。
  • ・お申し込み時にお知らせする整理番号を活用して入場いただきます。

*お申し込み時に頂いた個人情報は、本イベントの受講管理の目的でのみ使用し、参加希望者はこの目的での使用に同意したものとします。
*定員に達しなかった場合、当日受付をする場合がございます。

当館学芸員によるスライドトーク

終了致しました

本展担当学芸員が、展覧会の見どころや作品をご紹介いたします。

日時
10月25日(土)、11月21日(金)いずれも午後2時~2時45分
定員
先着50名(予約不要)
聴講費
無料(ただし本展の観覧券が必要です)
会場
パナソニック東京汐留ビル5階ホール

*10月25日(土)の展覧会観覧には、事前の日時指定予約が必要です。

展覧会の見どころ

1.ビーダーマイヤーのインテリア、工芸、モード作品

ビーダーマイヤー様式の特色は、家具や工芸、モードにおいて一貫して簡潔さ・実用性・抑制の美に表れています。
例えば、マホガニーやクルミなど上質な木材と、卓越した職人技によって仕上げられた、椅子やテーブル。幾何学的で簡潔な造形が実用性を際立たせる銀器や陶磁器、ガラス作品。節度のある装飾を重視し、身に着ける者の魅力を引き立てるドレスとジュエリー。いずれも私的空間への美学と丁寧な手仕事に支えられた、生活に根ざしたモダンな造形で後のモデルとなりました。

2.クリムト、ココシュカによる肖像画や、ホフマン、モーザーらによるモダンデザインの名品

オットー・ヴァーグナーの構造美を備えた郵便貯金局の家具、初期ウィーン工房による幾何学を強調したラディカルな銀器や、美しい統一意匠のテーブルウェア、細工の妙技が光るジュエリーやガラスビーズの装身具に加え、サナトリウム・プルカースドルフのための家具も並びます。
これらの作品群には、職人の高い技術に、合理主義と装飾性が響き合うデザインが展開され、ウィーン世紀末が志向した芸術と日常の総合を鮮明に伝えてくれます。さらに、グスタフ・クリムトによる《17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像》とオスカー・ココシュカによる《アルマ・マーラーの肖像》は、本展のハイライトの一つになるでしょう。

3.ダゴベルト・ペッヒェ、マリア・リカルツらによる、ウィーン工房後期の装飾性豊かな工芸作品

ウィーン工房の活動後期には、装飾性豊かな作品が複数の部門で生み出されました。その筆頭デザイナーというべき、ダゴベルト・ペッヒェによる作品はチューリヒ支店の箪笥をはじめ、陶磁器、ガラス、金工、レースなど多数登場します。このほか、マックス・スニシェクの斬新な抽象模様のテキスタイルによるドレスや、同じモード部門で活躍したマリア・リカルツのテキスタイルおよびドレスのデザイン画やビーズネックレス、バッグなど。さらにヒルダ・イエッサーやレニ・シャッシュル装飾による絵付けガラス作品や、ヴァリー・ヴィーゼルティアやグドルン・バウデッシュの軽快な遊び心が効いた陶磁器製花器、繊細な描線のフリッツィ・レーヴによるテーブル・カードなど、在籍した女性デザイナーの作品を様々ご覧いただきます。

第1章 ビーダーマイヤー

─ミニマルなかたちに宿る宇宙の雛形、日常を彩る劇場的な装飾

ビーダーマイヤー時代とは、政治的にはウィーン会議(1814–15)から1848年革命までの保守体制下の時代を指しますが、デザイン史的には18世紀末から19世紀半ばにかけてのウィーンの生活文化と造形の展開を意味します。この時代には、抑圧された政治状況のもとで、公的空間から私的生活へと人々の関心が移行し、家庭の幸福や個人の内面といった価値が重視されるようになりました。こうした背景が豊かな生活文化を育むことにつながり、ウィーンにおいて実用性・簡素さ・誠実さを備えた手工芸が発展します。
この時代の日用の工芸はシンプルで幾何学的な形、控えめな装飾、手仕事の丁寧さが特徴で、銀器、家具、ガラス、陶磁器、テキスタイルに至るまで、生活に寄り添う機能性と温かみを兼ね備えています。自然のモチーフや花を主題とする装飾が親しみを生み、広く市民層に受け入れられました。
また、時代が進むにつれて装飾性も増し、多様な様式が併存する「美の民主化」も見られます。こうした自由で内面的な美意識のあり方は、ウィーンのモダンデザインを育む土壌となりました。
本章では、そのようなビーダーマイヤー様式の工芸作品を主に素材で分類してお目にかけます。

《椅子》
1820年頃 アセンバウム・コレクション
Asenbaum Collection, ©︎Asenbaum Photo Archive
ヤーコブ・クラウタウアー 《ティーポット》
1802年 アセンバウム・コレクション
Asenbaum Collection , ©︎Asenbaum Photo Archive
ウィーン磁器工房 《カップアンドソーサー》
1818年 S.J.パッツル・コレクション
S.J.Patzl Collection, ©︎Asenbaum Photo Archive,
Photographen: Birgit und Peter Kainz

第2章 「総合芸術」、二つの時代

─ビーダーマイヤーとウィーン・スタイル

本章では、19世紀前半のビーダーマイヤー銀器やガラス作品と、20世紀前半にデザインされたウィーン工房やロブマイヤー製の作品を相互に比較します。
1807年制作のキャセロール鍋と1907年制作の蓋付きのグラーッシュ(ハンガリー発祥のスープ)用皿、あるいは1838年制作のサモワールと1924-25年制作のセンターピース。それぞれに、類似したフォルムや存在感を持っていることがよくわかります。およそ100年の開きのある両時代の工芸作品に共通性をもたらしたその理由は何でしょうか。これは、もちろんウィーン世紀末のデザイナーたちが、ビーダーマイヤーの造形を模範にしていた、ということにほかなりません。確かな職人技と適切な素材の扱いによる質実な手工芸、模倣ではなく生活に根ざすスタイルへの意志、階層を超える民主主義的な共感性、これらは、ウィーン世紀末のデザイナーや芸術家たちにとって祖父母世代が実現した重視されるべき価値なのです。彼らは、二世代前の様式ビーダーマイヤーに理想を見出し、自身の時代にふさわしいモダンなスタイルの基盤の一つとして意識して継承しました。
自国の文化的な記憶を新時代の感性と技術に接続することで、世紀転換期のデザイナーたちは新しい様式=「ウィーン・スタイル」を獲得したのだといえるでしょう。

アントン・ケル 《キャセロール鍋》
1807年 アセンバウム・コレクション
Asenbaum Collection, ©︎Asenbaum Photo Archive
ヨーゼフ・ホフマン 《グラーッシュ用の皿》
1907年 アセンバウム・コレクション
Asenbaum Collection, ©︎Asenbaum Photo Archive
《サモワール》
1838年 アセンバウム・コレクション
Asenbaum Collection, ©︎Asenbaum Photo Archive,
Photographen: Birgit und Peter Kainz
ヨーゼフ・ホフマン 《センターピース》
1924-25年 ギャラリー イヴ・マコー協力
Courtesy Gallery Yves Macaux, ©︎Yves Macaux

第3章 ウィーン世紀末とウィーン工房

─暮らしと時代をリードした女性たち

世紀転換期のウィーンでは、帝国の近代化と急速な都市拡張の波の中で、建築・デザイン・工芸の分野に革新がもたらされました。オットー・ヴァーグナーは折衷主義に決別を告げ、都市鉄道や郵便貯金局の設計を通じて「実用様式」という近代の美学を提示しました。彼の教え子ヨーゼフ・ホフマンと画家コロマン・モーザーは、1903年にウィーン工房を創設し、総合芸術としての生活芸術を目指します。これにアドルフ・ロースが対峙しつつも、自らの建築において同時代的な合理性を追求しました。ホフマンとモーザーの理念は、家具から衣服、ジュエリーに至る幅広い工芸の領域に展開され、市民の生活をモダンなものへと変革することに挑戦しました。
この時代にはまた、男性中心の文化の中で輝きを放った女性文化人やパトロンの存在がありました。それは、批評家・ジャーナリストのベルタ・ツッカーカンドル、先駆的な改良服を提案したエミーリエ・フレーゲ、ウィーン工房の経営に関与したオイゲニア・プリマヴェージらです。彼女たちは近代の家庭像、ジェンダー観、創造の場に対し独自の影響を与え、ウィーン世紀末の多層的な文化の一翼を担いました。
本章は、ウィーン世紀末のモダンデザインと時代を牽引した人物を紹介するため「ウィーン世紀末と女性インフルエンサー」、「ウィーン工房」、「ウィーン工房の女性アーティストたち」の三つの節で展開いたします。

コロマン・モーザー 《アームチェア》
1903年頃 豊田市美術館
左: ヨーゼフ・ホフマン(器デザイン)、マリア・リカルツ(装飾)
《ボックス》
右: ヨーゼフ・ホフマン(器デザイン)、マリア・リカルツ(装飾)
《花器》
1920年頃 エルンスト・プロイル・コレクション
Ernst Ploil Collection, ©Foto: Leopold Museum, Wien
ダゴベルト・ペッヒェ
《箪笥(チューリッヒ支店の家具の一部)》
1917年 エルンスト・プロイル・コレクション
Ernst Ploil Collection, ©︎Christian Mendez /MAK
ダゴベルト・ペッヒェ 《レース》
1920年頃 エルンスト・プロイル・コレクション
Ernst Ploil Collection, ©︎Ernst Ploil,
Photographen: Birgit und Peter Kainz
ヒルダ・イェッサー 《脚付き杯》
1917年(器デザイン)、1919年(装飾)
エルンスト・プロイル・コレクション
Ernst Ploil Collection, ©Ernst Ploil,
Photographen: Birgit und Peter Kainz

第4章 ウィーン・エコーズ

─「ウィーン・スタイル」の継承と共鳴

19世紀末のウィーンにおいて、前衛的な芸術家たちが親世代の折衷的な歴史主義を乗り越え、祖父母世代のビーダーマイヤー様式に理想を見出して、独自のモダンスタイルを築き、創出された「ウィーン・スタイル」。
この現在と過去の文化的記憶とを結びつける「ウィーン・スタイル」の精神は、世代と場所を超えて受け継がれたのでしょうか。例えば、陶芸家ルーシー・リーは、ウィーン工芸美術学校で学び、卒業後はウィーン工房とも関わりをもちながら作品を発表していました。イギリスへ亡命後は、機能性と優美さを兼ね備えた、きわめて洗練された陶磁器を制作します。彼女の作品には「ウィーン・スタイル」の美意識が息づいており、その深化を体現しているといえるでしょう。
本章では、このほか、グラーツ工芸美術学校で学んだのちフィンランドで活躍した陶芸家フリードル・ホルツァー=チェルベリ、ウィーン工房で活躍し、後に京都に拠点を移したフェリーチェ・リックス(上野リチ)、ホフマンに学び、ロースやウィーン工房の理念に影響を受け、スウェーデンに移住した建築家ヨーゼフ・フランクらの作品もご紹介し、そこに継承されている「ウィーン・スタイル」の姿を検証します。

ルーシー・リー 《ピンク線文鉢》
1970年代後半 個人蔵
Private Collection, Estate of the Artist
撮影:大屋孝雄
フェリーチェ・リックス(上野リチ)
《七宝飾箱「馬のサーカスⅠ」》
1950年頃(1987年再制作) 京都国立近代美術館