PARALLEL MODEオディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き

展覧会レビュー

19 世紀後半から20 世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家オディロン・ルドン(Odilon Redon、1840-1916)。本展は、世界有数のルドン・コレクションを誇る岐阜県美術館の全面的な協力のもと、国内の美術館や個人所蔵家、そしてオルセー美術館から出品いただいたパステル画、油彩画、木炭画、版画を展示し、近代美術の巨匠ルドンの豊穣な画業の全容をご覧いただきました。19世紀フランス美術史を専門とする高橋明也氏に監修いただき、岐阜県美術館とひろしま美術館に続いて当館へ巡回した本展。当館では、約110点の作品を通じて、モノクロームによる初期の版画、木炭画から、1890年代以降の色彩豊かなパステル画、油彩画への移り変わりを辿りながら、伝統と革新の狭間で、ルドンが独自の表現を築き上げていく姿を紹介しました。

美術館へのアプローチ
会場入り口

プロローグ:日本とルドン
Prologue: Japan and Redon

日本において、ルドンの作品と芸術は、彼の生前から現代に至るまで、美術や文学、音楽、漫画等、幅広い分野でインスピレーションを与え続けています。評論としてルドンの名が登場する日本の文献の最も早い例は、洋画家石井柏亭が1912 年に『早稲田文學』に掲載した文章が知られています。以降、美術雑誌で図版とともにルドンの作品は定期的に紹介され、日本の美術愛好家や芸術家たちをおおいに魅了していきます。ここでは、本展の導入として、竹内栖鳳、須田国太郎、伊藤清永旧蔵のルドンの作品を紹介し、ルドンの日本における受容の歴史の一端を紹介しました。

プロローグ「日本とルドン」の展示風景

第1章 画家の誕生と形成 1840-1872
Section I: The birth and growth of an artist

ルドンは、生まれ育ったボルドーで、絵画の基礎を習得し、その後1864 年にパリに出て、ジャン=レオン・ジェロームの画塾で指導を受けます。帰郷後は版画家ロドルフ・ブレスダンから版画技法を学びました。さらに、1872 年にパリに再び移り住んでからは、主に木炭画を制作する一方で、石版画にも取り組み、『夢のなかで』(1879 年)、『起源』(1883 年)などの石版画集をたて続けに刊行しました。本章では、ジェロームの油彩画《夜》(1850-1855年)とブレスダンの《善きサマリア人》(1861年)をルドンの作品と並置して展示し、師の芸術からの影響を視覚的に検証しました。また、郷里を描いた風景画、最初の自画像、そして木炭画と初期の石版画集を展覧し、画家としての形成期の制作に迫りました。

第1章「画家の誕生と形成 1840-1872」の展示風景

第2章 忍び寄る世紀末:発表の場の広がり、別れと出会い 1885-1895
Section II: Beginnings, endings, and increased opportunities for recognition at the approach of the fin-de-siècle

ルドンの木炭画と石版画の黒で描かれたイメージは、作家ジョリス=カルル・ユイスマンスがルドンの芸術を世紀末のデカダンの象徴として紹介したことで、フランス、ベルギー、オランダの文学者を中心に注目を浴びました。第2章では、文学作品の挿絵となったルドンの版画やフロベールの小説『聖アントワーヌの誘惑』に基づく版画集などを展観し、ルドンと文学の結びつきを紹介しました。また、1880年代後半以降現れる、主題や黒色の表現の変化に着目するとともに、色彩への志向の萌芽がみられる作品を紹介し、新たな画境を切り拓いていく世紀末のルドンの姿を見つめました。

第2章「忍び寄る世紀末:発表の場の広がり、別れと出会い 1885-1895」の展示風景

第3章 Modernist/Contemporarian・ルドン 新時代の幕開け 1896-1916
Section III: Redon the modernist and contemporary artist—dawn of a new era

第3章は、1890年代後半から最晩年までの、花、神話、宗教、肖像などを主題とする色彩の輝きに満ちたパステル画、油彩画、装飾画が一堂に会し、色彩画家としてのルドンの姿をあらためて浮き彫りにするハイライト的展示となりました。会場では、彼の装飾画の代表作《オリヴィエ・サンセールの屏風》を、日本風ではなく、西洋風の設えをイメージして、広げて装飾パネル的に展示し、具象と抽象の狭間にあるルドンの装飾的な表現を存分に見て頂きました。また、「花瓶の花」の絵画を集めて展示したエリアは、花々や花瓶に用いられた多彩な色調が生みだす幻想世界に向き合って頂ける特別な鑑賞空間となりました。

第3章「Modernist/Contemporarian・ルドン 新時代の幕開け 1896-1916」の展示風景

映像上映 「日比野克彦×ルドン@フォンフロワド修道院図書室」

ルドンが1910年から翌年にかけて手がけた大型装飾画《昼》と《夜》が飾られた南仏のフォンフロワド修道院図書室。2024年春、アーティスト日比野克彦氏(岐阜県美術館館長、東京藝術大学学長)は、この修道院図書室で、VR ゴーグルを装着し、デジタル仮想空間に絵を描きました。この滞在制作を記録した映像を、会期中、展示室前ロビーで上映しました。フォンフロワド修道院でしかみられないルドンの作品を日本の私たちにつなげる日比野氏の活動の一端をご覧いただきました。

協力:岐阜県美術館、アートまるケット

ロビー映像コーナーで「日比野克彦×ルドン@フォンフロワド修道院図書室」の映像を上映

イベントレポート

記念講演会「ルドン—光と色彩の輝きの中で」

本展監修者の高橋明也氏をお招きしてご講演いただきました。ルドンの生い立ちから最晩年まで、画家の生涯を丹念に辿りつつ、また、同時代の美術史上の人物や出来事との交差にも触れながら、ルドンの芸術と作品について解説くださる興味の尽きない内容でした。

講師
高橋明也氏(本展監修者、美術史家、東京都美術館館長)
日時
2025年4月26日(土) 午後2時~午後3時30分
会場
パナソニック東京汐留ビル 5階ホール

追加関連イベント「フランスと汐留をつなげて、日比野克彦氏の制作をライブで公開します!」

急遽追加開催された本イベントでは、ルドン作《昼》と《夜》のあるフランスのフォンフロワド修道院で滞在制作中のアーティスト日比野克彦氏(岐阜県美術館館長、東京藝術大学学長)が、修道院と汐留美術館、そして岐阜県美術館をオンラインでつなげて、制作の現場をライブで公開しました。会場では、希望者にVR ゴーグルを装着してもらい、日比野氏が絵を描くデジタル仮想空間に入る体験もしていただきました。この滞在制作で生まれた作品は、岐阜県美術館で公開されました。

アーティスト
日比野克彦氏(岐阜県美術館館長、東京藝術大学学長)
日時
2025年4月29日(火・祝)15時~17時
場所
パナソニック東京汐留ビル2階
協力
岐阜県美術館